住民がやりたいことをやれるような地域づくりを目指して~高知県長岡郡「元気高齢者が地域を創る」シンポジウム~ 

   

10月15日(日)14:00~、のいちふれあいセンター サンホールにおいて、南国市・香美市・香南市の住民を対象に、香美郡医師会の宇賀医師会長や中澤病院長のリーダーシップのもと、保健所や市町村行政と医師会他関係機関が連携した「元気高齢者が地域を創る」と題した在宅医療・介護連携推進事業シンポジウムが開催されました。この地域を所管する保健所の所長は、私の親友であり公衆衛生分野の全国のリーダーである田上豊資先生です。これまでこの地域には2回お招きをいただいておりますが、これまでは行政や専門家を対象としていましたが、今回は市民向けのシンポジウムということです。まさに田上先生プロデュースが色濃く出ており、私の講演を受けて、パネルディスカッションが、市民をその気にさせる企画になっていました。私の講演テーマは、「地域包括ケア時代 元気高齢者が地域を創る~ありがとうと言われて活き抜く~」で、田上先生ご指示のもと、パネルディスカッションにつながる内容を意識してお話させていただきました。パネルディスカッションでは、特に「とんからりんの家」の住民の主体的な運営を、立ち上げからずっと支援されてきている山首氏(土佐町社会福祉協議会事務局長)からのお話は大変印象的でした。まさに私がこれまで強調してきた、本来の住民主体の地域づくりのモデル事例そのもので、私の言うことが理想ではないことを、私自身にも地域にも強くアピールしていただきました。また当地域の医師会には、地域の将来を見据えた地域包括ケア時代の先取り的取組みに、熱意と行動力を持たれた先生方がいらっしゃることも、大変心強く感じました。流石!!田上先生の見事なコーディネートで、会場と舞台が一体となって、やり取りがお行われ、限られた時間でも、確実にポイントを押さえたディスカッションが行われ、素晴らしい!!と感銘を受けた次第です。

そのポイントを以下に記載していますので、是非皆さんも参考にしていただければと思います。

<パネルディスカッションの3つの論点>

以下の3つの論点でディスカッション。

【論点①】

■ 生活に戻るための「入院」(医療依存からの脱却)

・入院の目的は、病気を治療して「自分らしい暮らしに戻る(生活に戻る)」こと。病院は、治療の場であって生活の場(暮らしの場)ではない。

・しかし、現状は、退院後の受け皿さえあれば、退院して自分の生活に戻ることができる人が少なからず入院している。

・本人は、帰りたいが家族に迷惑をかけられないと考え、我慢して入院している人が多いが、家族は入院してくれると安心だし介護負担もないことから入院継続を希望する。つまり、退院後の受け皿の問題に加え、家族が「入院医療に過度に依存」することが問題ではないか。

・医療者は、患者さん、ご家族に必要以上に入院医療に依存(期待)しないで欲しいと思っており、退院をお勧めするが、ご家族にご納得いただけなくて困る場合が多い。

・そのためにも、医療者は、患者さんの退院後の暮らしのイメージを、患者さん・ご家族と入院時から共有しながら、病気の治療と併せて生活に戻ることを側面的に支援したいと考えている。

 

【論点②】

■ 退院後の生活の場は自宅だけ?

・現状は「自宅に帰れないので入院継続」という自宅か入院の二者択一的な選択になっているのではないか。

・「退院後の受け皿があれば」ということがありましたが、自宅以外に自分らしい暮しができる受け皿とはどんな所でしょうか?

・ご家族がいる方や、経済的に恵まれている方は自宅に戻り、自分の生活に戻ることができるが、そうでない方が退院する場合は、どんな所に退院されているのでしょうか?

・特別養護老人ホームなどの介護保険施設、有料老人ホーム、養護老人ホームなどの施設がありますが、そこでの暮らしは自分らしい暮らしになっているのでしょうか?

・現状は、入院することと施設に入ることが、ほぼ同じ感覚になっているのではないか。つまり、「施設に入れば施設にお任せ、お別れ」になり、それまでの地域での暮らしと隔絶された状態になり、入院前に獲得していた役割・生きがいを喪失し、元気度を落としている方が多いのではないか。

・本人、家族、地域住民のみんなが、「施設に入れば・・という諦め感」にとらわれ、施設任せにしてているのではないか?

・もし、家族に迷惑をかけずに自分らしい暮しができる選択肢を具体的にイメージでき、その選択肢を創造できれば、皆さんの選択も変わるのではないでしょうか?

 

【論点③】

■ 元気高齢者が「地域」を創る

・「とんからりんの家」など、土佐町の取組をビデオで紹介

・ビデオでご覧になったように、土佐町では、高齢者が住民主体のサロンである「とんからりんの家」が、自主的な集いの場であり、楽しく体操などをしながら元気高齢者づくりをする「予防の拠点」となっている。

・また、一般的に「入院したら終わり。もうお別れ」と言われるが、「とんからりんの家」に来ている人はそうした感覚は持っていない。「入院しても必ずサロンに帰ってくる」と考えている。実際、「とんからりんの家」の参加者の多くは入院経験を持っているが、退院後にADLが落ちたとしても、「とんからりんの家」を活用して元気を取り戻し、自分らしい暮らしを復活させている。

・退院後にADLが落ちても、入院前からのなじみの関係が築けているので、退院後も入りやすく、そこで生活を取り戻す拠点となっているということですね。

 

・元気な高齢者、また、地域づくりの主役になって活躍できる高齢者を増やすことが最も大切ですが、人間としての限界があり、誰もが病弱な状態になり最後を迎える。

・核家族化が進んだこと、家族に迷惑をかけたくないと考える高齢者が増えていることから、今後は、退院後に住み慣れた自宅に戻ることが困難な人が増えてくるであろう

・自宅に帰れなくなったとしても、入院前から、元気な時から、「とんからりんの家」のような地域の中の居場所があり、そこで元気な時から関係性を構築しておけば、退院後に元の暮らしに近い自分らしい暮らしを取り戻すことに役立つのではないか。

・仮に、有料老人ホームなどの施設に入ったとしても、施設に閉じこもるのではなく、こうしたサロンに通ったり、誘ってもらったり、逆に訪問してもらったりするというイメージですね。

・つまり、有料老人ホーム等、退院後の新たな自宅(居宅)と地域コミュニティをつなぐ居場所づくりが必要ということ

 

・櫃本先生が講演されたように、高齢者の8割は元気高齢者。社会的弱者である高齢者が増えるというマイナスの発想にとらわれるのではなく、これからは高齢化社会の主役になって活躍し、元気な社会を創ることができる高齢者が増えるというプラスの発想に転換する必要がある。

・「元気高齢者が地域を創造する」、そんな地域づくりを進めるために、土佐町の取組がたくさんの示唆を与えてくれている。

・土佐町で、素晴らしい住民主体の取組ができたのは何故なのでしょうか?

・行政や医療福祉関係者が発想転換しなければならないことは?

・お仕着せではなく、住民主体の活動を下支えする環境づくりが大切。

 

・今、行政と医療介護従事者だけが「地域包括ケア」という言葉を使っていますが、住民の皆さんにとっては「地域包括ケアって何?」という状態ではないか?

・地域包括ケアとは、「病気や障害を持つ方が、自分らしい暮しを取り戻すための地域をみんなで創造すること。」元気高齢者が主役になって、生活を取り戻す地域づくりを推進し、その活動を行政や医療者等が下支え的に支援する。そんな方向にみんなが発想転換する必要があるのではないか。

・「とんからりんの家」は、そんな住民主体の地域づくりの先行モデルの一つ。それぞれの地域地域で「元気高齢者が地域を創る」。そんな取り組みを一緒に進めていきましょう。

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