ストレスチェック制度 順風会のチャレンジ~第90回日本産業衛生学会~
2017/07/18
第90回日本産業衛生学会が 5月11日(木)~13日(土)東京ビッグサイトで開催されました。メインテーマは「産業保健近未来図」で 第100回大会に向けた10年間に産業保健が向かうべき道筋について討論されました。今回初めて厚生労働省が後援し ①近未来のがん予防対策 ②産業化学物質対策の強化 ③ストレスチェック制度を含む産業精神保健対策の強化 ④治療と就労の両立支援の確立 ⑤労働安全衛生法に基づく定期健康診断の見直し ⑥これからの産業医の在り方 ⑦過労死・自殺予防対策に関して・・・を重要課題とされました。私自身 これまで労働衛生コンサルタントとして 愛媛大学や県下の事業所で産業医として取り組んできましたが 特に力を入れてきた項目が ③ ⑤ ⑥ ⑦であり 自分の目指してきたことが 紺のご産業保健の本流になってきたことを実感しています。
大学辞職後 ストレスチェックの普及・定着をきっかけに 順風会と協働して 産業保健推進室の設置に参画するなど 産業保健の未来づくりに熱意を燃やしてきました。全国各地にある健診センターの今後の在り方を考える中で データを提供して終わりではなく 一年中継続して事業所の産業保健をバックアップしていく 「パートナー」として関われるよう機能を充実させていく必要があると確信しています。当健診センターでは メタボ健診のフォローアップではすでにその考えのもと 事業所全体のバックアップに取り組んできている経緯があります。メンタル面においてもその考えを広げていくとに関心があっことがこの一環の原動力になっています。さらに今後は 健診機関が自ら産業保健師を育成支援し 各事業所からの受諾を受けて 産業保健師がマネジメントして各産業医とも連携しながら 安全衛生委員会の運営や従業員のフォローアップなど 事業所の体制強化を図っていくことが肝要だと考えています。現在当会産業保健推進室には 7名の保健師が籍を置いていますが 互いに切磋琢磨して質的量的確保を図っており その実現に向けて取り組んでいきたいと意気込んでいます。今回の学会報告は 産業保健推進室のストレスチェックに関する活動報告です。1年余りの活動状況でまだまだこれからではありますが 毎週のミーティングを重ねてきた結果も反映して ストレスチェック自体を目的とせず 産業保健を推進する有効な手段として活用を図ってきた成果は現れていると自負しています。
学会には 私は他の用務で出席できなかったのですが 産業保健推進室の精鋭 黒川泰伸健診部長 石丸美喜枝産業保健師 石橋行雄営業部長らが 我々のチャレンジを全国へ発信してくれました。これを契機に 全国の同志との連携も密にしていきたいと思います。なお 以下に抄録を張り付けています。ご参考までに・・・・・
【演題名】
ストレスチェックに伴う順風会の取り組み
【演者】
○黒川泰伸1 羽田野今日子2 片山麻紀子2 石丸美喜枝2 金橋理恵2 武智真耶2
石橋行雄2 玉乃井敏夫2 堀本潤2 橋本太郎1 櫃本真聿3
1医療法人 順風会 順風会 健診センター 2医療法人 順風会 産業保健支援室
3四国医療産業研究所
【背景・目的】
平成27年12月より、労働者の心理的な負担の程度を把握する為のストレスチェック制度が始まった。厚生労働省の指針によると、定期的な労働者のストレスの状況検査、本人へのフィードバックと対応、結果集計・分析からの職場環境改善が主な目的である。そこで、事業所のストレス対策を包括的にフォローアップする為には、今後具体的にどのような取り組みが必要か、当センターでの取り組みについて検討した。
【方法】
当センターでは、以下の取り組みを行った。
1.検査実施に従事した者の守秘義務を遵守する為、専属の医師、保健師、産業カウンセラー、営業部、事務部による専門チームを設けた。
2.事業所のニーズに応える為、事前に繰り返し事業所からの意見を聴取した。
3.専門チームのスタッフにて、想定されうる限りのシミュレーションを行った。
4.ストレスチェック実施後のサポート体制を整え、当センターのシステムについて振り返り、改善を重ねていった。
【結果】
ストレスチェックを行っていく中で、事業所の担当者や当センターのスタッフから様々な疑問や意見が出てきた。
1.事業所の担当者の意見として
・ストレスチェック制度について何から始めたらいいかわからない
・どのように運用していったらよいかわからない
2.当センターのスタッフの意見として
・ストレスチェックの「やりっぱなし」が出てくるのではないか
・何でも事業所からの相談ができる、相談しやすい体制が必要ではないか
・ストレスチェックを身近に感じてもらう為、他事業所でのケース紹介や成功例等を提示してみてはどうか
・より専門の意見を聞く為、医療機関との連携が必要ではないか
上記の意見を加味し、事前に、制度の趣旨や目的等をセミナー形式で行うなどストレスチェック制度の理解を深める事から始め、医師面談の相談や各種アドバイスなど必要に応じてサポートを行った。ストレスチェック実施後は、受検者が放置される事のないよう、気軽に利用できる専門スタッフ(保健師、心理職員)を配置し、電話相談や個別相談窓口を設置した。また、「隠れ高ストレス者」に対するフォローとして、質問票で不安・うつの傾向がある受検者に対しては電話相談のアプローチを行った。産業医を中心に、地域ごとの精神科・心療内科の専門医療機関との医療連携体制も整ったが、今後はさらに産業カウンセラー協会とも連携する事により、制度の枠を超えたメンタルヘルス対応を行える体制も必要であると思われた。
一方、受け入れの体制は整ったが、ストレスチェック後のプログラムまでの理解、協力を得られる事業所は少なかった。また、高ストレス者の電話件数、医師面談件数は少ない状況であった。
【結語】
ストレスチェック制度を実施する上で、まずは事業所にメンタルヘルス不調の未然防止を行う事の必要性、制度の趣旨を理解していただく事が重要である。様々なサポート体制が整う一方で、高ストレス者が医師面接利用までつながる割合は極端に少ない。いわゆる「やりっぱなし」になっている事が多い現状に対し、現行の制度内容では不足している部分を補いながらサポートしていく体制が必要である。
また、高ストレス者のフォローアップだけでなく、高ストレス者を生み出してしまう職場環境の改善は重要課題であり、今後はストレスチェック制度を介して事業所メンタルヘルス対策をサポートできるように機能強化を図りたい。