地域包括ケア時代に 医療系学生に伝えたいこと
母校である愛媛大学医学部(医学科および看護科)の非常勤講師を続けています。
テーマは「コロナ禍を超えて“360度変わった!?”地域包括ケア時代に改めて医療系学生に伝えたいこと」としました。今回のトピックスは「健康経営」と「パフォーマンスの向上」、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、やはり狙いは真の公衆衛生の布教?です。
私が医学生だった45年前とは比較にならないほど知識・情報量は増え、それらを習得するために学生には膨大な記憶が要求され、医師としてのマインドを醸成するゆとり不足を懸念しています。医療の王道を歩めるように、狭義ではなく本来の「公衆衛生」を正しく理解し、日常の活動に反映させることができるように発信し続けることが私の使命だと思っています。しかし現状は、公衆衛生が予防医学としてあるいは統計学として、ますます狭い領域に追い込まれ、絶滅危惧種的な扱いとなっていることがとても残念です。公衆衛生が国家試験の必須とはされてきたのですが、あくまで一科目扱いで、保健医療福祉全般にわたる理念として認知されているようには思えません。超高齢化社会となった今も、医療の発展の証が疾患管理に重点が置かれ知識や技術の進歩に留まっている状況に、その一端を痛感しています。これでは、医療が生活資源として人々のウェルビーイング向上に役立つことはできません。
公衆衛生は、集団分析によるリスクファクター抽出等による、疾病を予防する医学ではありません。公衆衛生は公衆衛生の専門家ではなく、全ての医療者に共通した理念として養うものです。そもそも医療は、その人らしい生き方を実現するためのもので、人々の暮らしを支えるという視点が不可欠です。私は数少ない公衆衛生専門家だと自負していますが、医療者はもとより全ての人々が公衆衛生を理解し、それを踏まえた思考や行動ができるように、うるさがられても?言い続けることが私の役割だと覚悟しています。
公衆衛生を狭義に捉えがちな学生の先入観を払しょくするためにも、まずはヘルスプロモーションの理解に力点を置いています。ヘルプローションの狙いはセルフケア力の向上であり、そのために医療者が主体的に人々や地域のエンパワメントに関わることが何より大切であることを、「公衆衛生教祖?!」として強調してきました。
ヒポクラテスの名言のように、「人々に寄り添うことで治癒力を引き出す」といった医療本来のスタンスは、医学が進歩しようと変わらないはずです。しかし特に日本では国民皆保険制度が諸刃の刃となり、一方で医療に依存する傾向が強くなり、住民のセルフケアの向上を拒んできたように思います。「してあげる医療・してもらう主役の患者」といった関係性が、疾病対策およびリスクファクター除去といった専門家主導の体制へと導き、今の日本の医療を行き詰らせています。その人らしい生き方を重視する“ウェルビーイング”が、超高齢社会を背景にようやく受け入れられつつあるものの、医療を生活資源とする方向転換は途に就いたばかりです。
COVID-19 パンデミック、ウクライナ戦争、そして政治家の暗殺等々、この2~3年の間に我々の価値観を揺るがす大事件が起きました。元に戻すということではなく、歴史がループ回転を繰り返しながら新たな時代へ進んでいく中で、「360度の大転換」が必要だと受け止めています。現場は現状維持の限界に気づいていますが、転換を積極的に図ろうとする動きは未だ限られています。だからこそ、若い医療者の意識や行動の変革が確かな原動力になると、医学教育の大転換を期待せずにはいられません。
目を輝かせて聞いている学生を、少なからず目視することができたのは、何よりの私自身へのエンパワーでした。