事業所のリーダーへ~産業保健から健康経営へ~
健康経営を推進する事業所のリーダーへ
働く人の健康を、組織の成長につなげる
今、多くの事業所が大きな転換点を迎えています。
人手不足、少子高齢化、働き方の多様化、価値観の変化、AIの急速な進歩など、企業や組織を取り巻く環境は、これまでにないスピードで変化しています。
その一方で、職場では適応障害、うつ状態、不安、不眠、身体的不調など、メンタルヘルスに関する問題が増えています。
休職者や離職者への対応だけでなく、出勤はしていても十分な力を発揮できない状態、いわゆるプレゼンティーイズムも、組織の生産性や職場の雰囲気に大きな影響を及ぼしています。
こうした状況の中で、健康問題を本人だけの問題として捉え、不調が起きてから個別に対応するだけでは、組織全体の立て直しにはつながりません。
今こそ、健康を単なる福利厚生や疾病管理としてではなく、組織の成長、人材育成、生産性向上を支える重要な経営基盤として捉えることが必要です。
それが、健康経営です。
健康経営は、経営そのものである
健康経営という言葉から、健康診断や運動、食事指導、メンタルヘルス対策などを思い浮かべる方も多いと思います。
もちろん、それらも重要です。
しかし、本来の健康経営は、健康施策を増やすことだけではありません。
働く人が安心して仕事に向き合い、それぞれの能力を発揮し、成長を実感できる組織をつくることです。
そして、その結果として、
- 職員の意欲が高まる
- 組織内のコミュニケーションが改善する
- 休職や離職が減少する
- 人材が育ち、定着する
- 業務の質や生産性が向上する
- 組織への信頼と社会的評価が高まる
という好循環を生み出していきます。
健康経営は、人を大切にする経営であると同時に、組織の持続的成長を実現するための経営戦略です。
不調者対応だけでは、職場は元気にならない
産業医として多くの職場に関わる中で、近年特に増えているのが、適応障害をはじめとするメンタルヘルス不調です。
本人は仕事を続けたいと考えていても、職場に行こうとすると体が動かない、動悸や頭痛、倦怠感が生じる、上司や同僚との関係に強い不安を感じるといったケースが少なくありません。
こうした不調の背景には、本人の性格や病気だけではなく、
- 業務量や役割の不明確さ
- 上司と部下のコミュニケーション不足
- 評価に対する不安
- 職場内の人間関係
- 相談しにくい組織風土
- 失敗を許容しにくい雰囲気
- 管理職の抱え込み
- 部署間の連携不足
など、職場全体の問題が関係していることがあります。
不調者が出るたびに、休職、配置転換、業務軽減といった対応を繰り返すだけでは、根本的な改善にはつながりません。
大切なのは、不調者を支援すると同時に、不調を生みやすい職場の構造や文化を見直すことです。
「課題解決型」から「目的達成型」へ
職場には、解決すべき問題が数多くあります。
長時間労働、ハラスメント、メンタルヘルス不調、人材不足、離職、コミュニケーション不足、管理職の負担など、課題を挙げれば限りがありません。
しかし、目の前に現れる問題を一つずつ処理するだけでは、組織はいつまでも課題に追われ続けます。
必要なのは、「問題をどう減らすか」だけではなく、
私たちは、どのような職場をつくりたいのか。
という目的を明確にすることです。
例えば、
- 誰もが安心して相談できる職場
- お互いの強みを認め合える職場
- 失敗から学ぶことのできる職場
- 若手が成長を実感できる職場
- 管理職が一人で抱え込まない職場
- 年齢や立場を越えて支え合える職場
- 一人ひとりが自分の仕事に意味を感じられる職場
を目指すと決めれば、その実現のために何をすべきかが見えてきます。
課題解決型の健康管理から、目的達成型の健康経営へ。
このギアチェンジこそが、これからの組織に求められています。
職場を変えるのは、現場のリーダーである
健康経営を推進するうえで、経営者の意思決定は非常に重要です。
しかし、理念や方針を実際の職場に根づかせるのは、管理職、現場責任者、チームリーダーなど、日々職員と接しているリーダーです。
職場のリーダーの言葉や態度は、働く人の安心感、意欲、自己肯定感に大きな影響を与えます。
リーダーが部下の変化に気づき、話を聴き、必要な支援につなぐことができれば、不調の早期発見や重症化予防につながります。
一方で、管理職自身が大きな責任や負担を抱え、孤立している職場も少なくありません。
健康経営では、管理職に一方的に責任を負わせるのではなく、リーダー自身を支える仕組みが必要です。
産業医、保健師、人事労務担当者、外部専門機関などが連携し、リーダーが相談できる体制を整えることが重要です。
人は「管理」されるだけでは力を発揮できない
働く人は、単なる労働力ではありません。
一人ひとりに、それぞれの人生、家族、価値観、強み、弱みがあります。
人は、自分の存在が認められ、役割が明確になり、周囲から期待されていると感じるときに、大きな力を発揮します。
反対に、何のために働いているのか分からない、自分は評価されていない、相談しても意味がないと感じる職場では、能力を十分に発揮できません。
これからのリーダーに必要なのは、指示し、管理し、評価することだけではありません。
一人ひとりの強みを見つけ、役割を与え、成長を支え、組織の目的と本人の仕事を結びつけることです。
私はこれを、エンパワメント型のマネジメントと考えています。
健康経営によって、組織は再び力を取り戻せる
メンタルヘルス不調者や休職者が増え、職場全体が疲弊している事業所であっても、適切な取り組みによって組織は変わることができます。
経営者が人を大切にする姿勢を示し、管理職が職員との関わり方を学び、相談体制を整え、職場の目的を共有する。
こうした取り組みを積み重ねることによって、職員の安心感と信頼が少しずつ回復していきます。
安心感が生まれると、コミュニケーションが変わります。
コミュニケーションが変わると、連携が変わります。
連携が変わると、仕事の質とスピードが変わります。
そして、働く人の意欲と組織のパフォーマンスが大きく向上していきます。
私は、健康経営には、低迷している組織を再生させる力があると確信しています。
産業医は、組織の伴走者でありたい
産業医の役割は、健康診断結果を確認し、就業判定を行い、不調者との面談を行うことだけではありません。
働く人の健康と、組織の持続的な成長を両立させるために、経営者、管理職、人事労務担当者、産業保健スタッフとともに考えることも、重要な役割です。
特にメンタルヘルスの問題では、医学的な判断だけで解決できないことが多くあります。
本人の状態、仕事内容、職場環境、人間関係、組織の方針などを総合的に整理し、それぞれが納得できる現実的な対応を考える必要があります。
私は産業医として、不調者への個別支援だけでなく、
- 経営者への助言
- 管理職研修
- メンタルヘルス対策
- ストレスチェックの活用
- 復職支援体制の構築
- 相談体制づくり
- 人材育成
- 職場環境改善
- 健康経営の推進
などを通じて、事業所全体を支援していきたいと考えています。
地域の事業所が元気になれば、地域も元気になる
働く人の健康は、その人だけの問題ではありません。
一人の職員が元気に働くことは、その家族の安心につながります。
事業所が活力を取り戻すことは、地域経済や雇用を支えることにつながります。
健康経営に取り組む企業や組織が地域に増えることによって、その地域全体が、安心して働き、暮らし続けられる場所になっていきます。
健康経営は、一つの事業所のためだけの取り組みではなく、地域づくりそのものでもあります。
健康経営を、掛け声で終わらせないために
健康経営は、認定を受けることや、制度を整えることだけが目的ではありません。
大切なのは、実際に働く人が、
「この職場で働き続けたい」
「困ったときに相談できる」
「自分の力を発揮できている」
と実感できることです。
そのためには、それぞれの事業所の規模、業種、組織文化、抱えている課題に合わせた取り組みが必要です。
すべての事業所に共通する一つの正解があるわけではありません。
だからこそ、現場の声を聴き、目的を共有し、できるところから一歩ずつ取り組むことが重要です。
事業所のリーダーの皆様へ
職場を変えるために、最初から大きな制度をつくる必要はありません。
まずは、
- 職員の話を聴くこと
- 職場の現状を知ること
- 目指す職場像を言葉にすること
- 管理職同士が支え合うこと
- 専門職に早めに相談すること
から始めることができます。
健康経営は、人を大切にすることから始まります。
そして、人を大切にする組織は、必ず強くなります。
私たちは、健康経営を推進する事業所のリーダーの皆様とともに、働く人が元気になり、組織が成長し、地域全体が活力を取り戻すための取り組みを進めていきたいと考えています。
不調への対応から、元気を生み出す組織づくりへ。
健康管理から、健康経営へ。
そして、健康経営を、組織の未来をつくる力へ。
その一歩を、皆様とともに踏み出していきたいと思います。
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