医療介護においても最大変革期~AI時代の到来~

AI時代の医療・介護を考える

―正解を出す医療から、人に寄り添い、生きる力を支える医療へ―

医療・介護は今、かつてない大きな変革期を迎えています。

その背景には、少子高齢化による人手不足や社会保障の問題があります。

しかし、近年の医療・介護を大きく変えたものとして、特に二つの出来事を考えなければなりません。

一つは、新型コロナウイルス感染症による社会の変化です。

そして、もう一つは、AIの急速な進歩です。

コロナ禍によって、人と人との距離が広がりました。

面会、交流、会話、触れ合いが制限され、人間関係の希薄化が進みました。

その一方で、生成AIをはじめとした技術は、驚くべき速さで医療や介護の現場に入り始めています。

コロナ禍とAI時代。

この二つの大きな波は、医療・介護の役割を根本から問い直しています。


コロナ禍が私たちに残したもの

コロナ禍において、感染を防ぎ、生命を守ることは、最も重要な課題でした。

医療機関や介護施設では、厳しい感染対策が行われ、多くの命が守られました。

その一方で、私たちは大きな課題も経験しました。

感染を防ぐために、家族との面会が制限されました。

高齢者が外出や交流の機会を失い、身体機能や認知機能が低下することもありました。

人生の最終段階において、家族と十分に会うことができなかった方もおられます。

医療安全や感染対策が、本人の生活の質や、その人らしい生き方よりも優先される場面もありました。

もちろん、その時点では必要な判断であったことも少なくありません。

しかし、感染を防ぐことだけが、本当に人を守ることなのか。

生命を長らえることと、その人らしく生きることを、私たちはどのように両立させるべきなのか。

コロナ禍は、医療や介護が何を守るために存在するのかを、私たちに改めて問いかけました。


人と人とのつながりが失われた時代

コロナ禍は、感染症だけの問題ではありませんでした。

人と人との直接的な関わりが減り、職場、学校、家庭、地域におけるつながりが弱くなりました。

オンライン化が進み、便利になった一方で、雑談や何気ない声かけ、表情から相手の変化を感じ取る機会が失われました。

医療・介護の現場でも、職員同士が十分に話し合えず、孤立感や疲弊感を抱えるケースが増えました。

患者さんや利用者との関係も、感染対策という壁を隔てたものになりました。

こうした人間関係の希薄化は、コロナ禍が終わった後も残っています。

適応障害、抑うつ、不安、不眠、孤独感など、こころの問題が増えている背景には、人と人とのつながりが弱くなったことも大きく関係していると考えています。

人は、一人では生きていけません。

人との関係の中で支えられ、誰かを支えることによって、自分の存在や役割を実感します。

医療・介護は、この人と人とのつながりを取り戻す役割を担わなければなりません。


少子高齢化と人材不足

日本の医療・介護は、少子高齢化という大きな課題にも直面しています。

医療や介護を必要とする人が増える一方で、それを支える働き手は減少しています。

医師、看護師、介護職、保健師、リハビリテーション職など、多くの職種で人材不足が深刻化しています。

一人ひとりの職員にかかる負担は増え、忙しさの中で、患者さんや利用者と十分に向き合う時間が失われつつあります。

書類作成、記録、会議、情報共有、制度への対応など、本来の支援以外の業務も増えています。

このままでは、働く人が疲弊し、医療・介護の質を維持することが難しくなります。

だからこそ、AIやデジタル技術を適切に活用し、人が本来果たすべき役割に集中できる環境をつくる必要があります。


AIによって、医療・介護は大きく変わる

AIは、診断支援、画像解析、治療方針の提案、文書作成、情報整理、健康管理など、多くの分野で活用され始めています。

今後は、さらに多くの業務をAIが支えるようになるでしょう。

膨大な医学情報を整理し、病気の可能性を示すこと。

検査結果を分析し、治療の選択肢を提案すること。

診療記録や報告書を効率的に作成すること。

患者さんや利用者の変化を早期に捉えること。

AIは、人間よりも速く、正確にできる仕事を増やしていきます。

これまで医療者の専門性とされてきた「知識を持っていること」や「正解を出すこと」の価値は、大きく変わっていくでしょう。

しかし、これは医療者や介護職が不要になるということではありません。

むしろ、人間にしかできない役割が、これまで以上に重要になるということです。


「正解を出すこと」だけが医療ではない

従来の医療では、症状から病気を診断し、正しい治療を選ぶことが、医師の重要な役割でした。

もちろん、これからも医学的な正確さは必要です。

しかし、AIが多くの医学情報を分析し、治療の選択肢を提示する時代になると、医療者の役割は変わっていきます。

同じ病気であっても、すべての人に同じ答えが適切とは限りません。

どの治療を選ぶのか。

何を優先するのか。

どこまで治療を受けるのか。

これからどのように暮らしたいのか。

その答えは、本人の年齢、生活、家族、仕事、価値観、人生観によって異なります。

AIは、医学的に適切な選択肢を示すことはできます。

しかし、その人にとって何が最も大切なのかを決めることはできません。

だからこそ、これからの医療者には、正解を一方的に伝えるのではなく、本人と一緒に考える力が求められます。


AI時代に求められる「人間力」

AI時代に最も重要になるのは、人間力です。

人間力とは、知識や技術だけではありません。

相手の話に耳を傾ける力。

言葉にならない不安を感じ取る力。

相手の立場に立って考える力。

異なる価値観を受け止める力。

本人の強みや可能性を見つける力。

多職種と対話し、協力する力。

正解のない問題に、ともに向き合う力。

こうした力は、マニュアルを覚えるだけでは身につきません。

人と関わり、悩み、振り返り、対話を重ねる中で育まれていきます。

これからの医療・介護では、専門知識を持つだけでなく、人として相手と向き合う力が、専門性の中心になっていくと考えています。


寄り添うとは、何をすることなのか

医療や介護の場では、「寄り添う」という言葉がよく使われます。

しかし、寄り添うことは、ただ優しく接することではありません。

本人の言うことをすべて受け入れることでもありません。

寄り添うとは、その人が何に困り、何を大切にし、どのように生きたいと考えているのかを理解しようとすることです。

そして、本人が自分で考え、選び、歩んでいけるように支えることです。

専門職が答えを押しつけるのではなく、一緒に考える。

できないことだけを見るのではなく、できることや強みを見つける。

支援されるだけの存在としてではなく、その人自身が誰かを支え、社会の中で役割を持つ存在であることを大切にする。

それが、AI時代に求められる寄り添う医療・介護です。


人間力を育てることが、医療・介護の主役になる

これまでの医療・介護人材育成では、専門的な知識や技術を身につけることが重視されてきました。

もちろん、それらは不可欠です。

しかし今後は、それだけでは十分ではありません。

AIが知識を補い、技術を支援する時代には、人と関わる力を育てることが、人材育成の中心になります。

患者さんや利用者と対話する力。

家族の思いを受け止める力。

職種や立場を越えて協働する力。

自分の感情や思い込みに気づく力。

失敗から学ぶ力。

自分自身を整え、支援を求める力。

そして、人の力を信じ、その力を引き出すエンパワメントの力。

医療・介護の質は、設備や制度だけで決まるのではありません。

そこで働く人が、どのような姿勢で人と向き合うかによって決まります。

人間力を醸成することが、これからの医療・介護における最も重要な課題です。


医療安全と生活の質を対立させない

コロナ禍では、感染防止や医療安全と、患者さんや利用者の生活の質が、対立するものとして扱われる場面がありました。

しかし、本来、この二つはどちらか一方を選ぶものではありません。

安全を守りながら、その人らしい生活をどのように実現するか。

リスクをゼロにするのではなく、本人や家族とリスクを共有し、納得できる選択をどのようにつくるか。

そこに、専門職の判断と対話の力が求められます。

安全のために生活を制限するだけではなく、本人が何を大切にしているのかを理解し、その希望をできる限り実現する。

これからの医療・介護では、リスク管理から、本人とともに考えるリスクマネジメントへ転換する必要があります。


チームで支える医療・介護へ

複雑化する健康問題を、一人の医師や一つの職種だけで解決することはできません。

医師、看護師、保健師、薬剤師、介護職、リハビリテーション職、管理栄養士、カウンセラー、ケアマネジャーなどが、それぞれの専門性を持ち寄る必要があります。

しかし、専門職が集まるだけではチームにはなりません。

互いの立場を理解し、情報を共有し、目的を一つにすることが必要です。

その中心に置くべきなのは、組織や専門職の都合ではなく、本人がどのように生きたいかという思いです。

これからは、医師を中心とした医療から、本人を中心とした「かかりつけチーム」へ変わっていかなければなりません。

AIはチーム内の情報共有や意思決定を支援できます。

しかし、人をつなぎ、互いの思いを調整し、信頼関係をつくることは、人間の役割です。


医療・介護で働く人自身を支える

人に寄り添うためには、支援する側にも余裕が必要です。

しかし現実には、医療・介護従事者自身が、過重労働、人間関係、責任の重さ、感情労働によって疲弊しています。

自分自身が限界に近い状態では、患者さんや利用者に十分に向き合うことはできません。

人間力を発揮することを、個人の努力や献身だけに求めてはいけません。

職員が安心して相談できること。

失敗を責めるのではなく、学びにつなげること。

互いに支え合えること。

休息を取ることができること。

自分の仕事に意味を感じられること。

こうした職場環境を整えることも、医療・介護の質を支える重要な条件です。

働く人を大切にする組織でなければ、患者さんや利用者を本当に大切にすることはできません。


AIは、人を減らすためではなく、人間らしさを取り戻すために使う

AIの導入が、単なる人員削減や業務量の増加につながってはなりません。

AIを導入して時間が生まれても、その時間にさらに多くの業務を詰め込めば、働く人はますます疲弊します。

AIを活用する目的は、医療者や介護職が、本来向き合うべき人に向き合う時間を取り戻すことです。

記録や事務作業を効率化し、患者さんの話を聴く。

情報整理をAIに任せ、家族と話し合う。

定型業務を減らし、多職種で考える時間をつくる。

AIによって生まれた時間を、人と人との関係に戻す。

それが、AIを医療・介護に活用する本当の目的であると考えています。


AIと人間は、競争するのではなく役割を分かち合う

AIが人間の仕事を奪うのではないかという不安があります。

しかし、大切なのはAIと人間のどちらが優れているかを競うことではありません。

AIが得意なことは、AIに任せる。

人間にしかできないことは、人間が担う。

AIは、膨大な情報を扱い、一定の基準で判断することを得意とします。

人間は、相手との関係を築き、迷いや矛盾を受け止め、意味を一緒に考えることができます。

両者の強みを組み合わせることによって、医療・介護はより良いものになります。

AIは、医療者に代わるものではなく、人間らしい医療を実現するためのパートナーです。


「治す医療」から「生きることを支える医療」へ

医療の目的は、病気を治すことだけではありません。

病気があっても、自分らしく暮らすこと。

年齢を重ねても、地域や社会の中で役割を持つこと。

人生の最終段階まで、自分の大切にしてきたものを守ること。

それらを支えることも、医療・介護の重要な役割です。

これからの医療は、病気を中心に考える医療から、人の人生を中心に考える医療へ変わっていく必要があります。

何を治すかだけではなく、何のために治すのか。

どれだけ長く生きるかだけではなく、どのように生きたいのか。

専門職が決める医療から、本人とともにつくる医療へ。

AI時代は、その変革を進める大きな機会になると考えています。


AI時代の医療・介護を担う人へ

これから医療や介護の仕事を目指す人に、私は伝えたいと思います。

AIが進歩しても、人は必要です。

むしろ、人にしかできないことの価値は、これまで以上に高まります。

人の話を聴くこと。

手を握ること。

不安なときにそばにいること。

本人が言葉にできない思いを感じ取ること。

正解のない選択を、ともに悩むこと。

その人の力を信じること。

そして、その人が誰かとのつながりの中で、自分らしく生きることを支えること。

それこそが、これからの医療・介護の専門性です。


私が目指すAI時代の医療・介護

私は、AIの進歩を恐れる必要はないと考えています。

AIを適切に活用することによって、医療や介護の質を高め、働く人の負担を減らし、患者さんや利用者と向き合う時間を増やすことができます。

しかし、技術が進歩するだけで、医療が良くなるわけではありません。

その技術を、何のために使うのかが問われます。

効率化だけを目的とするのか。

経費削減のために使うのか。

それとも、人と人とのつながりを取り戻し、一人ひとりが自分らしく生きるために使うのか。

私は、AIを、人間らしい医療・介護を実現するために使いたいと考えています。

AIが正解を支え、人間が人生に寄り添う。

AIが情報を整理し、人間が意味を考える。

AIが業務を支え、人間が人を支える。

そして、支援する側と支援される側が固定されるのではなく、互いに支え、支えられる関係をつくる。

それが、私の目指すAI時代の医療・介護です。


医療の大変革を、人間性を取り戻す機会に

少子高齢化、コロナ禍、そしてAIの急速な進歩。

これらは医療・介護に大きな課題をもたらしました。

しかし、この変化を単なる危機として捉える必要はありません。

これまで当たり前だと思っていた医療や介護のあり方を見直し、本当に大切なものを取り戻す機会でもあります。

医療安全と生活の質を両立すること。

専門職中心から本人中心へ変わること。

一人の専門家が抱えるのではなく、チームで支えること。

知識や技術だけではなく、人間力を育てること。

AIを効率化の道具だけではなく、人と向き合う時間を取り戻すために活用すること。

そして、人と人との縁を大切にすること。

AI時代の医療・介護の主役は、AIそのものではありません。

AIを活用しながら、人の思いを受け止め、人の力を信じ、支え合う関係をつくる人間です。

医療・介護の未来を決めるのは、技術の進歩だけではありません。

私たちが、どのような医療・介護を目指すのかという意思です。

AI時代だからこそ、人間力を。

効率化が進む時代だからこそ、寄り添う時間を。

正解が簡単に得られる時代だからこそ、その人にとっての意味をともに考える医療を。

私は、この大きな変革の時代を、人間らしい医療・介護を取り戻すための新しい出発点にしたいと考えています。

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