「今こそヘルスプロモーション」~第62回東海公衆衛生学会学術大会開催~

      2016/07/25

櫃本先生

7月16日(日) 愛知県豊橋市の「穂の国とよはし芸術劇場プラット」において 東海地域の公衆衛生行政や医療福祉関係者約200人の参加のもと 第62回東海公衆衛生学会学術大会(尾島俊之理事長)が開催されました。特別講演にお招きいただき テーマは「健康なまちづくり~今こそヘルスプロモーション~」で 「走る ヘルスプロモーション」を自称している私にとって 願ってもない機会をいただきました。それもそのはず 大会長は佐原光一豊橋市長さんですが 実質の仕掛け人は 犬塚君雄豊橋市保健所長さん 講演の座長もしていただきましたが 私の30年来の親友で 大学早期辞職した私の活動の後押しのために 企画していただいた賜です。当然講演には「力(リキ)」が入りました。サブテーマは「地域包括ケア時代と公衆衛生マインド」ですが 犬塚先生からのご指示もあり このところ重点的に講演活動してきた地域包括ケアにまつわる医療介護関連ではなく まさにヘルスプロモーションど真ん中の「公衆衛生マインドと地域づくり」に焦点を当てて お話をさせていただきました。

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引き続いて 再び犬塚先生を座長にシンポジューム(鹿児島の宇田先生と同様ですね) 「健康なまちづくりの実践報告」が行われました。シンポジストには 大澤裕美氏(元気づくり大学副学長) 荻野勉氏(三島市健康推進部長) 後藤文枝氏(東海市健康いきがい対策監)の三名です。住民の意識改革に真っ向から取組みその普及のための実践的研究を進めているいなべモデル。トップダウンによりスマートウェルネス構想を行政の縦割りを超えて推進している三島モデル。保健師のリーダーシップのもと 人と人・資源と資源をつなげ地域のネットワーク化を推進している東海モデル。ヘルスプロモ-ション理念をしっかり踏まえて 私が申し上げたことは理想ではなく 現実に地域で展開できることを証明していただいたような活動で 私自身がエンパワメントされました。

IMG_6742これまでの公衆衛生の歴史をさかのぼると 第一世代の公衆衛生は 感染症(伝染病)時代ですが 病原菌が発見されていない頃 病気は「悪い水・悪い土・悪い空気」が原因と考えられ 住民自身による地域環境改善への公衆衛生活動が最重視されていましたが 病原菌が明らかになり 抗生物質が開発されたことにより 患者への個別的治療が優先され 公衆衛生は徐々に軽視されていきました。その後成人病が感染症に打って変わり 再び第二世代の公衆衛生として 保健師達の活躍により 住民健診や健康教育など 健康な地域づくりが推進されていきました。しかし成人病が生活習慣病に言い換えられ バブル期を背景に 健診は地域づくりではなく病院の廊下を伸した 「医療への入り口」へと変貌しました。また 公衆衛生が地域保健に 公衆衛生看護が地域看護に代わり 公衆衛生の概念が疾病予防(疫学)に限定され 医療・福祉とは分断され 地域づくりが見えなくなり 結局 公衆衛生は薄められていきました。

バブルが崩壊した後も 医療バブルの見直しには手をつけられないまま21世紀に突入し いわゆる医療崩壊の時代を迎えました。介護保健制度もスタートし 医療費抑制策が全面に打ち出される中で 国民の理解と協力を得るために 再度健康づくりの重要性が強調されました。いよいよ第三世代の公衆衛生革命 「健康日本21」「健やか親子21」などの策定に基づいた地域計画づくりを核に ヘルスプロモーション理念に基づいた公衆衛生が再燃することになりました。私の人生においても 県を辞職して この分野で全国的に活動していこうと 血気盛んな頃でした。しかし10年間計画であったこれらの計画の中間見直し つまり5年もたたないうちに あの「メタボ健診」が導入され 国民皆保険から民間保険制度導入を想定しながら 「太ってる奴は非国民?!」といった個別ケア対策に引き戻され 保健師達も個別の保健指導に翻弄されることになってしまいました。このように ヘルスプロモーションの核となるセルフケアマネジメントや地域づくりが軽視され 早期発見・医療など個別医療ケア重視に移行し 「健康日本21」は地域に定着しないまま 医療費及び介護費抑制を評価指標とした 社会的弱者への「後追い的対策」に終始する方向へとあっけなく移行することになりました。まさに公衆衛生は「絶滅危惧種」として 疾病予防や疫学といった狭い範疇へと追い込まれていったのです。この期において 公衆衛生革命の肝であるヘルスプロモーションが進まなかったことが起因して 社会保障費等による財政圧迫が顕著化し 医療依存度を下げないままに医療費抑制策を断行したことによる「医療崩壊」を招いたと私は確信しています。

私は地域包括ケア時代を 世界最先端の少子高齢社会の我が国社会保障制度のあり方を見直し大きく舵取りをする 第四世代の公衆衛生革命と捉えています。この期を逃がしていては 公衆衛生はまさに絶滅すると思っていますし 最後にして最大のチャンスかもしれません。ヘルスプロモーション理念を基盤にソーシャルキャピタルの醸成を図り コミュニティーを再生することで 社会的弱者をケアの対象からむしろ地域資源として活躍していただけるように あらゆる資源が協働して 住民の意識改革を図り 住民力・地域力はエンパワメントしていくことが肝要です。そのプロセスを通じて 地域包括ケアは地域に普及定着し 医療や介護に依存しない 生活重視の地域づくりが推進されていくと期待しています。

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