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~職場におけるメンタルヘルスケアと地域における地域包括ケア~

2015年12月末、約14年勤めた愛媛大学医学部附属病院総合診療サポートセンターを辞職しました。そして新たに四国医療産業研究所を設立し、ストレスチェックの導入を契機とした産業衛生の推進に、また日本医師会総合政策研究機構の客員研究員として、地域包括ケアの構築に向けて、人生のギアチェンジを図りました。この二本柱による活動が私の今後のライフワークです。前者は愛媛及び四国を基盤に、後者は全国レベルで活動することにしております。どうかよろしくお願いいたします。

愛媛・四国はもとより 全国からのお問い合わせお待ちしております。

まず職場のメンタルヘルスケアですが、ほぼ10年の検討期間を経て、平成27年12月1日からストレスチェックが職場で義務づけられました。血液や心電図など健診検査項目の一つとして、ストレスチェックが加えられたと誤解されがちですが、事業所がメンタルヘルス推進に責任を負うことが明確化された、産業衛生における重要なターニングポイントだと認識しています。今や長期療養の大半を占める精神関連疾患が今後「労働災害」として認められる機会が急増する可能性も含めて、事業所がこれを契機に、メンタル面への取り組みを充実強化していくことが余儀なくされています。またこれまでの健診機関が、結果を返して“一丁上がり”的ないわゆる「検診屋」から、事業所の産業衛生を一緒になって推進するパートナーとして蘇るチャンス到来とも認識しています。産業医も事業所内診療所もしくは単なる名ばかりの位置づけから、メンタルヘルスへの関わりが重視され、その推進大きな責任を負うことになりました。労働衛生コンサルタントとして、健診機関や産業医(スタッフ)と事業所、医療機関その他関連機関の連携を推進し、地域の限られた資源を有効に活用するマネジメントの役割の重要性を痛感しています。スタート時の混乱は避けがたいですが、この気をチャンスに産業衛生の推進に取組んでいきたいと思います。

また一方、地域包括ケアが強調される昨今、日本は危機的な状況にあります。人口に占める50歳以上の割合は長い歴史においてずっと2割以下であったのに、1980年からの約50年間で一気に6割を占めるようになり、一方総人口も2100年には現在の3分の一まで減るといった、世界で類を見ない、少子・多死社会に突き進んでいます。高齢者が増え認知症や寝たきりなど要介護者が増えることを憂うより、高齢者こそがこれからの地域を支える担い手となることを重視して、『元気高齢者』が活躍できる地域を創造していく取り組みの必要性を痛感しています。『元気高齢者』とは“ぴんぴん”のイメージではなく、“ときどき医療ときどき介護を受けながらでも自分らしく生き他人のために地域のために役立とう”と行動する人達です。今後団塊世代が高齢者に移行していく中、社会的弱者としてのケア対象とするではなく、日本を支える中心資源として活躍の場を構築してこそ、日本の将来があるのです。高齢者は、若い人に迷惑をかけないことではなく、若い人を支え続ける自らの役割を再認識しなければなりません。「ありがとう」と言いながら生き残るのではなく、「ありがとう」と言われることで生き抜くことが、これからの重要な心構え・覚悟として、地域づくりが各地で進められて行くことが肝要です。社会保障システムの継続といった範囲を超えて、医療や介護システムに依存しがちな日本人気質を切り替え、元気高齢者を育成支援するために医療や介護そして地域がどう取り組んでいくか、地域自身、住民自身が考えていかなければなりません。

職場におけるメンタルヘルスケアと地域における地域包括ケアは、一見全く別物のようですが、公衆衛生やマネジメントの観点からは共通したアプローチであり、社会資源や人材のエンパワメントが目指すべき方向であり、同時進行により互いに刺激し合いながら進めてきたいと考えています。

2016年5月  櫃本真聿

 

 

公開日:
最終更新日:2016/05/17