地域全体で「伴走」をつなぐ――近江八幡市医療連携推進会議に参加して

   

2026年9月11日、近江八幡市役所で「令和8年度 近江八幡市医療連携推進会議」が開催されました。

私は滋賀県そして近江八幡市のアドバイザーとして10年余り関わっています。今日の委員会はその一環だり、議長としてこれまで継続してこの会議に関わってきました。今回は第9期総合介護計画における取り組みを振り返るとともに、第10期計画に向けた方向性について、委員の皆さんと意見交換を行いました。

会議には、医師会、歯科医師会、薬剤師会、訪問介護、訪問看護、介護支援専門員、医療機関、行政など、地域の医療・介護を支えるさまざまな立場の方々が参加しています。

これまでの取り組みを、次の段階へ

近江八幡市では、これまで次のような取り組みが幅広く進められてきました。

  • 市民のセルフケア力を高める啓発
  • 自分が望む暮らしや生き方を考える支援
  • 医療・介護関係者の多職種連携
  • 関係者間の情報共有
  • かかりつけ医・歯科医・薬局との連携
  • 地域の社会資源に関する情報の集約と発信
  • 切れ目のない在宅医療・介護の提供体制づくり

これらは、近江八幡市が長年積み重ねてきた大切な成果です。

今後は、それぞれの事業を実施することにとどまらず、それらが住民一人ひとりの暮らしの中で、実際にどのような変化を生み出したのかを見ていく必要があります。

医療・介護は「生活を支える資源」

今回、私が特に強調したのは、医療・介護を単独のサービスとして捉えるのではなく、その人らしい生活を支える「生活資源」として捉える視点です。

医療や介護は、それ自体が最終目的ではありません。

病気や障害、加齢による変化があっても、本人が望む場所で、自分らしく暮らし続ける。その生活を実現するための大切な手段の一つが、医療・介護です。

そのためには、医療・介護関係者だけで完結するのではなく、行政、地域包括支援センター、民間事業者、住民活動、移送、配食、見守りなど、地域にあるさまざまな生活資源との連携が必要です。

近江八幡市が進めている「商助」の取り組みも、医療・介護と生活支援を結びつける重要な力になると思います。

一人の伴走者から「リレー型の伴走」へ

今回の議論の中心となったキーワードの一つが「伴走者」です。

本人に寄り添い、希望や生活上の課題を受け止め、必要な支援につなぐ伴走者の存在は重要です。

しかし、特定の一人が最初から最後まで伴走し続けることには限界があります。また、生活の局面によって、必要となる支援者も変化します。

そこで考えたいのが、その時々に関わる医療・介護・生活支援の担当者が、それぞれの場面で伴走者となり、次の支援者へつないでいく「リレー型の伴走」です。

大切なのは、誰が伴走しても、本人の希望や目指す方向が見失われないことです。

伴走をつなぐ共通の情報ツール

その基盤として、ACPやライフサイン、本人の価値観や生活上の希望などを記録する、共通の手帳やカードをつくってはどうかという話になりました。

例えば「お薬手帳」のように、本人が日常的に携帯し、医療機関、介護事業所、薬局、地域包括支援センターなどを利用する際に提示するものです。

そこに記録するのは、単なる病名や薬の情報だけではありません。

  • これからどのように暮らしたいか
  • 何を大切にしているか
  • どこで療養したいか
  • 家族や支援者とどのような話をしているか
  • 心身や生活にどのような変化が起きているか
  • 困ったときに誰へ相談したいか

こうした情報を本人が記録し、本人の同意を得ながら関係者が共有することで、その時点での伴走を、次の伴走へつなげることができます。

これは単なる情報管理のための手帳ではありません。

本人が自分の生活や希望を振り返り、家族や支援者と話し合うためのセルフケアツールであり、住民と多職種を結ぶためのツールでもあります。

ACPを「最期の準備」だけにしない

ACPは、人生の最終段階における医療やケアについて話し合う取り組みとして知られています。

しかし、それだけでは少し狭いように思います。

ACPを、単に最期の医療を決めるものではなく、

「これから、どのように生きたいか」
「どのような生活を続けたいか」
「自分にとって大切なものは何か」

を、家族や支援者と繰り返し話し合う機会として捉えることが重要です。

本人の希望は、病状や生活環境によって変わります。一度記入して終わりではなく、その時々のライフサインを確認しながら、何度でも話し直せる仕組みにする必要があります。

「配布する啓発」から「使い続ける啓発」へ

お薬手帳も、導入当初から多くの人が携帯していたわけではありません。

医療現場で繰り返し必要性を伝え、受診のたびに持参や提示を求めることで、今では持っていくことが当たり前の習慣になりました。

ACPやライフサインを記録する手帳も、作成して配布するだけでは普及しません。

医療・介護関係者が日常的に、

「手帳を持っていますか」
「今の希望や生活状況を記録していますか」
「ご家族や支援者と話していますか」

と声をかけ、繰り返し確認することが、最も実践的な普及啓発になります。

つまり、

「配布して知ってもらう啓発」から、「現場で繰り返し活用し、持つことを当たり前にする啓発」へ

進める必要があります。

将来的には、カードやスマートフォンなどのデジタル媒体へ発展することも考えられます。しかし、その前提として、住民が自分の希望や生活情報を記録し、必要なときに提示する習慣を、地域に根づかせることが大切です。

行政に期待される役割

滋賀県内でも、ACPや情報共有に関するさまざまなツールが作られ、活用されています。

まずは、すでに県内で使われている手帳、カード、ノートなどを収集し、それぞれの特徴や活用状況を整理することが必要です。

そのうえで、行政が中心となって、

  • 既存のツールや先進事例を関係機関で共有する
  • 地域としての基本方針を示す
  • 共通して活用できる情報ツールを検討する
  • 医療・介護・生活支援の現場に継続的な声かけを働きかける
  • 小規模なモデル事業から実施し、改善を重ねる
  • 将来的なデジタル化を検討する

といった環境を整えることが重要だと思います。

回数や認知度だけでなく、住民の変化を見る

これからの評価では、講座や会議の開催回数、参加人数、手帳の配布数、ACPという言葉の認知度だけを見るのでは不十分です。

本当に確認したいのは、

  • 自分の希望や生き方について家族と話したか
  • ACPやライフサインを実際に記録しているか
  • 困ったときに相談できる人や場所を知っているか
  • 本人の希望が多職種の間で共有されているか
  • その時点での伴走が次の支援へつながったか
  • 本人が望む生活や療養を実現できたか

という、住民や支援者の具体的な変化です。

自宅で最期を迎えることだけが目標ではありません。重要なのは、本人が望んだ暮らしや療養のあり方と、実際の支援がどの程度一致したかということです。

地域全体で、その人らしい暮らしを支える

今回の会議を通して見えてきた方向性は、次の言葉にまとめられると思います。

特定の一人に依存する伴走ではなく、共通の情報ツールを介して、地域全体で伴走をつないでいく。

住民自身が、自分の希望や生活の変化を記録し、必要なときに支援者へ伝える。

医療・介護・生活支援に関わる人たちは、その情報を共有し、それぞれの局面で伴走者となって、次の支援へつなぐ。

行政は、その仕組みと環境を整える。

これは、専門職が一方的に何かを提供する仕組みではありません。本人が持っている力や意思を引き出し、それを支える人と地域資源の縁を整える取り組みです。

今回の会議は、これまで築いてきた多職種連携を、住民一人ひとりの暮らしの中で実際に機能する「伴走のネットワーク」へ発展させるための、大変有意義な機会になりました。

今後も近江八幡市の皆さんとともに、その人らしい生活を地域全体で支える仕組みについて考えていきたいと思います。


タグ:在宅医療/介護連携/ACP/セルフケア/多職種連携/ライフサイン/地域包括ケア/近江八幡市

 - その他