「あの人、ちょっと変わっている」で終わらせない

   

――大人のADHD・ASDを知ることから始めよう

最近、産業医面談をしていて、以前にも増して気になることがあります。

「適応障害」と診断され、仕事がうまくいかなくなった方とお話ししていると、その背景にADHDやASDなどの発達特性があるのではないか、と感じるケースに出会うことが少なくありません。

もちろん、産業医面談だけで診断できるものではありません。

しかし、

「仕事の優先順位をつけるのが極端に苦手」
「複数の仕事を同時に頼まれると混乱してしまう」
「忘れ物やミスを何度も繰り返す」
「予定の変更に強いストレスを感じる」
「人の言葉を文字通り受け取ってしまう」
「周囲とのコミュニケーションがなぜかうまくいかない」
「興味のあることには驚くほど集中できる」

そんな話を聞いていると、単なる「本人の努力不足」では説明できないことがあります。

本人自身が、

「自分はADHDかもしれません」
「昔から人付き合いが苦手でした」

と話されることもあります。

発達障害は、決して「子どもだけの問題」ではありません。

子どもの頃から特性はあったものの、それなりに周囲に支えられ、学校生活では大きな問題にならず、大人になって仕事の複雑さや人間関係、責任が増えたところで初めて困難が表面化することもあります。

ADHDとは何でしょうか

ADHD(注意欠如・多動症)では、大きく、

不注意
多動性
衝動性

といった特徴がみられます。

ただし、大人の場合、子どものように「じっと座っていられない」という形だけで現れるわけではありません。

仕事を順序立てて進めるのが苦手だったり、締め切りを忘れたり、片付けが苦手だったり、話の途中で別のことに注意が移ったりすることがあります。

一方で、興味を持ったことには非常に集中し、専門的な分野で高い力を発揮する人もいます。

ですから、

「ADHD=仕事ができない」ではありません。

どんな仕事を、どんな環境で、どのように任せるかによって、その人のパフォーマンスは大きく変わります。

ASDとは何でしょうか

ASD(自閉スペクトラム症)では、

人とのコミュニケーションや社会的なやり取りの難しさ
強いこだわりや限定された興味
変化への対応の難しさ
感覚の過敏さ・鈍感さ

などがみられることがあります。

例えば、職場では、

「空気を読んで」と言われても何をすればいいのか分からない。

曖昧な指示より、

「今日の15時までに、この資料をこの形式で作ってください」

と具体的に言われた方がはるかに仕事がしやすい。

急な予定変更に強いストレスを感じる。

自分の関心のある分野については驚くほど深い知識を持っている。

そんな方もいます。

これも「性格が悪い」「融通が利かない」という一言で片づけてしまうと、本質を見失います。

発達特性は「ある・ない」だけで考えない

ここは、とても大切だと思っています。

私たちは誰でも、

「忘れやすい」
「片付けが苦手」
「人付き合いが苦手」
「こだわりが強い」
「予定変更が嫌い」
「一つのことに夢中になる」

といった特徴を多少は持っています。

発達障害は、単に一つの特徴があるだけで決まるものではありません。

いくつもの特徴があり、それによって日常生活や仕事に持続的な困難が生じているか、子どもの頃からの経過はどうだったかなどを含め、専門的に判断されます。

だからこそ、

「あの人は変わっているから発達障害だ」

と周囲が安易にレッテルを貼ることも避けなければなりません。

一方で、

「発達障害なんて特別な人の話だ」

と遠ざけてしまう必要もないと思います。

大切なのは診断名よりも、

「この人は、何が得意で、何が苦手なのだろう」

と考えてみることです。

「苦手なこと」ばかりを仕事にしていないでしょうか

私は産業保健の現場で、ここに大きな問題を感じています。

発達障害や発達特性があると分かると、

「難しい仕事は無理だろう」
「単純作業をしてもらおう」

となることがあります。

もちろん、その人に適した業務調整が必要な場合はあります。

しかし、

苦手なことを避けることと、その人の能力を使わないことは違います。

発達特性のある人の中には、特定分野への強い集中力、深い専門性、正確さ、独自の視点、豊かな発想などを持つ人もいます。

ところが、その人の「できないこと」だけを見て仕事を決めてしまえば、本来持っている力まで眠らせてしまいます。

本人は毎日、

「自分にはもっとできることがあるのに」

と思いながら、やりがいを感じられない仕事に耐える。

そして周囲からは、

「協調性がない」
「やる気がない」
「扱いにくい」

と評価される。

これが長く続けば、自信を失い、強いストレスを抱えます。

その結果として適応障害や抑うつ状態など、二次的な心の不調につながることもあります。

私は、ここを何とかしたいと思っています。

「本人を変える」だけでは解決しない

これまでの職場では、

「もっと注意してください」
「周囲に合わせてください」
「コミュニケーション能力を身につけてください」

と、本人を変えようとすることが多かったのではないでしょうか。

もちろん、本人が自分の特性を知り、工夫することは大切です。

例えば、

予定を見える化する。
一度に多くの仕事を抱え込まない。
指示をメモにする。
集中できる時間と環境を確保する。
苦手な場面では周囲に具体的な助けを求める。

自分自身の「取扱説明書」を少しずつ作っていくことは、とても役立つと思います。

しかし、本人だけに努力を求めてはいけません。

職場側にもできることがあります。

曖昧な指示を減らす。
優先順位を明確にする。
仕事を小さな単位に分ける。
急な変更はできるだけ事前に伝える。
静かに集中できる環境をつくる。
本人の得意分野を仕事に活かす。
定期的に短い面談を行う。

こうした工夫は、実は発達障害のある人だけに役立つものではありません。

誰にとっても働きやすい職場づくりにつながります。

発達障害かもしれない、と感じているあなたへ

「どうして自分だけ、こんな簡単なことができないんだろう」

そう思い続けてきた方もいるかもしれません。

しかし一方で、

「このことなら何時間でも集中できる」
「人には気づかないところまで気づく」
「好きな分野なら誰にも負けない」

という部分もないでしょうか。

自分の苦手な部分だけで、自分全体を評価する必要はありません。

大切なのは、

自分の特性を知ること。

そして、

自分が力を出しやすい環境を知ること。

困りごとが強く、仕事や生活に支障が続いているのであれば、発達障害を専門的に診る医療機関などに相談することも選択肢の一つです。

診断名をもらうことそのものが目的ではありません。

自分を理解し、

「自分はどうすれば生きやすいのか」

を考えるための一つの手段だと思います。

一緒に働いている皆さんへ

職場に、

「あの人、ちょっと変わっているよね」

と思う人はいませんか。

そんなとき、

「変な人」
「面倒な人」
「仕事のできない人」

とレッテルを貼る前に、少しだけ立ち止まってみてください。

もしかすると、その人は、

「できない」のではなく、「そのやり方ではできない」

のかもしれません。

指示の仕方を変える。
仕事の任せ方を変える。
環境を少し変える。

それだけで驚くほど力を発揮する人もいます。

人を仕事に無理やり合わせるのではなく、

人と仕事の組み合わせを考える。

これからの職場には、そんな発想がもっと必要ではないでしょうか。

「違い」を弱点だけにしない社会へ

私は、発達障害について考えることは、単にADHDやASDについて勉強することではないと思っています。

これは、

「人はそれぞれ違う」

という当たり前のことを、私たちが本当に受け入れられるかという問題でもあります。

誰にでも得意なことがあり、苦手なことがあります。

平均的に何でもできる人だけを基準に職場をつくれば、そこから外れる人は「問題のある人」になってしまいます。

でも、その違いを理解し、環境や役割を工夫すれば、

「困った人」が「力を発揮できる人」に変わることがあります。

本人も自分の特性を知る。

周囲もその特性を理解する。

そして、その人の力が発揮できる「縁」と「環境」を整える。

これは、私が大切にしているエンパワメントの考え方そのものです。

発達障害のある人が、社会に無理やり合わせ続けて疲弊するのでもない。

周囲がその人を「変わった人」として排除するのでもない。

お互いが少しずつ違いを知り、工夫する。

その先に、

誰もが自分の持っている力を発揮できる職場、そして生きやすい社会がある。

私はそう考えています。

「何ができないか」ではなく、「どうすれば力を発揮できるか」。

発達障害を理解する第一歩は、診断名を覚えることではありません。

その人を知ろうとすること。

そこから始めてみませんか。

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